5章|子宮内膜症の発覚

腹痛の正体 1995年13日夕方

受け入れてくれる事になったのは
自宅と同じ地域の私立病院。

病院への道々、
「これで病気を診てもらえる」
と安心すると共に再発の不安と、
まだ分らない腹痛の原因が重くのしかかってくる。

病院の正面玄関に車が乗り入れると
白衣姿の医師2人と看護婦さんの姿が目に入ってきた。

車から降り名前を確認され
「そうです」と答える。

「あなたが病院を出た後、もう一度R先生から連絡が入りましてね。
そろそろ着く頃だろうと待ってました」と
40才半ばの男性医師が言った。

「もう診療時間外なので正面玄関は閉じられてしまうから、
迷ったらいけないと先生が心配して」
と看護婦さんが言いながら車椅子に座るよう促してくれる。

「お腹の痛みは大丈夫ですか?
採血が済んだら、
すぐに診てみましょうね。
大丈夫ですよ」
と女性の先生が優しく微笑む。

男性医師は血液内科のK先生。
女性医師は産婦人科のM先生。
私の病活(闘病・病気生活)に欠かせない
お二人との出会いの瞬間。

看護婦さんに連れられ
採血、X線、心電図の検査を終えると産婦人科の診察室に向った。

本日の診療時間は既に終了している。
静まりかえった外来を車椅子の車輪音だけが響きわたる。

診察室ではM先生が待っていた。
「産婦人科の検診は初めてかしら?」
診察台に誘導しながら先生が聞く。

初めて目にした産婦人科の診察台に少しためらいながら
「はい」とだけ答える。

「では座って両足をここにおいてください」
と看護婦さんに促され座ると
慣れた手つきで下着をはずされ両足を固定された。
そのまま椅子の部分が電動で上がり背中側がリクライニングしていく。

身体が横たわった姿勢になった瞬間
「すとん」という音と共に椅子の部分が落ちる仕組みになっている。

「では診ますね。ちょっと違和感あるかもしれないけど我慢してね。
ごめんね」と先生は内診を始めた。

先生が触診を始めると
初めての事で身体がびっくりして固まる。

「大丈夫ですよ。はい深呼吸して~。
力抜いて~。大丈夫。大丈夫!」
先生の優しい言葉で身体の緊張が少しほぐれる。

「お願いします」と言い
目の前の白い天井だけを見つめ
全てを先生にお任せした。

「次に超音波検査しますので機械いれますね。
ちょっと違和感あるけど大丈夫だからね」
と言われた次の瞬間
違和感と激痛で思わず
「痛い」と身をよじる。

「ごめんね~。これは痛いよね。思っていた異常に大きいものね。
どうしてこんなになるまで・・・」
最後の先生の言葉で事の重大さが伝わってくる。

「生理順調だった?
生理痛ひどくなかった?
何か変わったことなかった?」
と聞かれ

「生理の周期も順調で、生理痛も腹痛もなかったんです。
最近お腹が少し出てきた気はしましたけど、
ちょっと太ったかな?って・・・」と私は答えた。

「ここ最近でという感じではないですよね。
この様子だと3~4年は経ってる。
う~んどうしましょうね」
先生は超音波画像の一点を見つめている。

「そんなに前から・・・」
病気の恐さを、じゅうぶん分かってたはずの自分が、
身体のSOSに気付けなかった悔しさが込み上げる。

20才の時に右胸に引きつるような痛みを感じた。
テレビで見た「乳がんと闘った女性の話」
を思い出し、すぐに近所のクリニックを受診した。

医師は触診をしながら
「若いのに乳がん検診に来るのは関心ですね。
でもあなたの場合は結婚もまだだし
若いから大丈夫」と言った。

その医師の言葉を
「そうなんだ。
まだ20代だし結婚してないから大丈夫なんだ」
と自分なりに納得してしまったのも
産婦人科受診から遠ざかってた要因の1つになってしまった。

「では起き上がりますね」
先生の声で診察台が動き出した。
すぐに看護婦さんがバスタオルをお腹にかけてくれたので、ホッとした。

母が呼ばれ
私の隣に用意された椅子に腰掛ける。

「それではチエさんの病気を説明します。」
先生はモニターの画像と血液検査の結果を交互に見ながら
テキパキ説明し始めた。

・診断結果は子宮内膜症のチョコレート嚢腫(のうしゅ)
・左卵巣に8㎝以上のチョコレート嚢胞(のうほう)がある
・嚢胞(のうほう)の大きさから3~4年前には発症してた可能性あり
・破裂の可能性があり早急な治療が必要であること

ここまで話すと先生は一息おいて
私を見て穏やかな口調で
「ご結婚は?」と聞かれた。

「結婚はまだですが
結婚を考えている方はいます」と答える。

すると先生は
「そうですか~いいですね」と笑顔で
「将来ご結婚し、望んだ時に赤ちゃんを授かれるように手術しましょうね」と言ってくれた。

引き続き先生から治療の説明。

・結婚や出産の事を考え子宮と卵巣は温存
手術による血小板(当時1万台)の数値など貧血へのリスクを考え
体に一番負担のかからない治療方法を選択

治療方法としてはエタノール固定術
・局部麻酔で行なうので体への負担が軽く、
膣から嚢胞(のうほう)に穿刺し
溜まった血液を吸引するので出血のリスクが低い。
血液を吸引した後はエタノールを注入し嚢腫(のうしゅ)壁を固める方法。

・およそ60%の確率でチョコレート嚢腫(のうしゅ)消失の治療効果あり
でも再発の可能性もある。
0.7%ほどの率で卵巣がんに変異することもある

私の状況を全て考慮し考えてくれた
M先生と血液内科K先生を信じて頑張りたいと思った。

早いほうが良いということで、
その後すぐに手術の準備が行なわれ
手術には血液内科のK先生も立ち会ってくれる。

「手術の同意書」
必要になった時の「輸血の同意書」
そして
「ウィルス感染検査の同意書」に
母がサインするのをボンヤリ眺めていた。

この2日間の緊張の糸がほぐれ
「退院はいつ出来るのだろう?
合格者セミナー今度いつだったかな?」
と能天気に考えながら。

 

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