34章|C型肝炎治療と輸血

輸血を前に 4月22日(金)

昨日の夕方回診の一件があり、
それまで以上にS先生と顔を合わせたくなかった。

願いが叶ったみたい?
今朝は研修医T先生の回診。

「輸血のオーダー入ってますね」
T君の言葉で、

「輸血でまた病気になったらどうするんですか?」
というS先生の言葉が思い出される。
不安が頭を離れない。

そんな私の心境を察してかT君が、
「チエさんの貧血のことはK先生が1番ご存知なのだから
安心してお任せしましょう」と微笑む。

再生不良生貧血が再発してから
共に病気と向かい合ってくれてるK先生。
その信頼に揺るぎはないけど、
輸血が原因でC型肝炎になったのも事実なだけに…。

このままの気持ちで輸血して、
いつかこの日のことを悔やむことだけはしたくない。

急遽、K先生の外来受診を入れてもらう。
頭から離れない不安や今後のこと・・・
上手く言葉に出来ないけど自分の思いを先生にぶつける。

K先生は私の言葉一つ一つに頷きながら真剣に聞いてくれる。

輸血をするべきか?しないべきか?
納得できる何かがほしかった。

でも明確な答えは見つけられない。
輸血を受けて、何年か先に今の技術では分からない
ウィルスに感染してしまう可能性は否定できない。

かと言って今の私の状態のままだと、最悪の状況になる可能性もある。

「先の不安から今を生きれなかったら本末転倒でしょ?」
K先生のこの言葉で、私は輸血の同意書にサインした。

全てを納得できたわけではなかったけど、
リスクも承知で自分自身で決めたこと。

あの時…幼い頃に輸血を受けた時とは違う。
だから、この決断に後悔だけはしない。

当たり前?だけど、今日のインターフェロンは中止。
夕方の回診の時のS先生のため息は、
インターフェロンの中止から?
それとも私が輸血真っ只中だったから?

 

輸血を受けて 4月23日(土)

昨日、今日と400mlの輸血が行われる。
昨日の針刺しはK先生。

本来なら入院病棟の医師が行うのだけど、
私の気持ちを考えたK先生からの申し出だったらしい。
先生ありがとう。

用意された血液バッグを見て一瞬緊張が走る。
入念に氏名、血液型が確認される。

K先生の腕前は流石!
殆ど何も感じない間に針刺し完了。
そしていよいよ。

ゆっくりと私の身体に、他の方の血液が入って行く。
それは…何か不思議な感覚。
輸血をする前は不安や恐怖の方が強かった。

でも実際始まると、そんな気持ちは消えていた。
もう色々考えても仕方ない、進むしかないという思いと。
血液が入って行くごとに温かいものが身体を巡る感覚。

手足がボッボッし始め、
なんか元気をもらってる感じ。
どなたか分からないけど、貴重な血液をありがとうございます。

2時間30分ほどかけて終了。
看護師Kさん(元教育係)が心配して様子を見に来てくれる。

開口一番が、
「顔色全然ちがうよ~!
もうねヤバかったもんチエさん」だった。

そうか、そんなにヤバかったんだ?私。

 

輸血それぞれの医師の立場 4月24日(日)

土日、S先生は基本お休み。
なので少し気が楽。

回診も本来はないのだけど、
研修医T先生は休みなしなので、掛け持ちの血液内科に行く前、
一日2回は顔を出してくれる。

そうT君は研修スタートの4月から、消化器内科と血液内科を掛け持つ研修医。
まるで私のために?と大きな勘違いをしそうになるくらいの偶然。
それも指導係りがS先生とK先生って…怖いほどの偶然。

今朝もT君に、
「輸血に対してS先生とK先生の言うことが違いすぎる。
同じ医者なのに何で?」と思わず疑問を口にしてしまう。

T君は少し間を置いて、
「たぶん診てこられた患者さんを、しっかり見てきたからかな?」
と難しい話になる。

以前にも触れた話になりますが、
血液内科K先生は、治療が出来ずに逝ってしまった
患者さんに対しての思いから、出来る治療はするべき!

私に対しても、肝炎が進行し怖い病気になる前に、
出来る治療があるのなら絶対にするべき!
それによって再生不良生貧血が増悪しても輸血や、
いざとなったら骨髄移植という治療があるのだからという考え。

一方消化器内科S先生は、輸血が原因でC型肝炎になってしまった患者さん、
肝炎が進行し思い半ばで逝ってしまった患者さんをたくさん診てきた。
なので輸血に対して嫌悪感を持たれるのも仕方ないこと。

それぞれの医師の立場。
それぞれの医師の患者を思う気持ち・・・。

 

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