39章|C型肝炎治療と震災後の真実これからのこと

震災から2カ月~本当の真実~ 5月11日(水)

14時46分。
館内放送が流れ、病院内にいる一同で黙祷。

病棟ロビーのテレビでは、各地で黙祷を捧げる光景と共に、
世界中から義援金が集まっていることや、
復興が順調に進みつつあることを説明する政治家の姿が映し出される。

「嘘ばっかり」その声で振り向くと、
同室の被災地から避難されている女性のお母さんが、
テレビに向かい呟いている。
私と目が合う。

「私たち家族は浜町で被災し、命は助かったけど、家族6人はバラバラになりました。
一緒に避難してきた娘は避難所での心労で体を壊して・・
それでも今だに国からは全く援助はありません。
義援金が集まってるというけど、私達は1円もいただいてません。
娘も退院しないといけないけど、また避難所に戻れば同じ事を繰り返す。それを考えると・・
行くとこがないんです」と、誰に言うでもなく呟いている。

本当の現実を目の当たりにした一瞬だった。

 

これからのこと 5月12日(木)

夕方の回診の時、S先生が、
「とりあえず、しばらくはインターフェロンの副作用である貧血の対処は輸血。
必要な輸血の頻度や程度も分かってきたようですし、通院に切り替えましょうか?」
と突然言い出した。

「え?いいんですか?」咄嗟に聞き返す。

「まぁインターフェロン治療の方は先日もご主人ともお話しした感じで進めて行きますし、
今は貧血で通院するのも大変だろうと思うから入院してるような状態ですからね。
チエさんが週1の通院が大丈夫そうなら良いんじゃないですか?」

「大丈夫!大丈夫です」

「なら、明日の結果で決めましょう」
と病室を出ていくS先生。

「やったー!」
誰にも聞こえないようにガッツポーズの私。

 

退院します~&インターフェロン6回目投与 5分13日(金)

「あれ?チエさん良いことあった?」
今朝も見事な仕事ぶりで、一回でピシリと採血を成功させてくれたMさんが、
注射針を抜きながら聞いてくる。

「わかります?」と私が答えると、

「うんうん、血管が生き生きしてるよ!」とMさん。

「実はね、今日の結果でインターフェロンができたら退院しても良いって~」
と報告すると、

「おお~それは良かったねー!」
と喜んでくれる。

「インターフェロン注射後の様子も見てということになるので、
たぶん退院は週明けの月曜日になると思います。Mさんいる?」
と聞くと、

「うんうん勤務日だから8:30には来てるよ」

「良かった~!なら、当日の朝、外来が始まる前にご挨拶に来ますね~」
と言うと、Mさんは嬉しそうに微笑み、

「待ってるよ~」と言ってくれる。

16時過ぎ、看護師さんがペグインターフェロンを携えやってくる。

「良かった~退院できる」
そう思いながら、薬が注射されるのを眺めていた。

夕方の回診の時。
「はい、これ」とS先生から手渡された、
血液検査の結果を受け取りながら、

「では先生、昨日お話ししたように退院ということで良いのですよね?」
と聞くと、

「そうですね」と仰る。

先生がいなくなると、すぐさま家族や友達に、
「月曜日には退院します~」メールを送信しまくった。

 

今日の検査結果
血小板:2.2万 白血球:1500 赤血球:242 ヘモグロビン:7.5
AST:64 ALT:86 r-GPT:157

 

病院内グルグル見納め 5月14日(土)

朝食の前、久々に院内をグルグルしてみる。

入院した当初、朝のウォーキングをしていた頃の光景が思い出される。
あの時は、こんなにも入院生活が長引くとは思ってもいなかったし、
あの大震災が起こるとも、2カ月以上が経った今でもその影響が凄まじいことを
夢にも思ってはいなかった。

一歩一歩、一つ一つの事を思い出しながら、
静まり返った外来病棟をグルグルしてみる。

 

最後の日曜日 5月15日(日)

彼と一緒に明日の退院に向け荷造り。

彼は当日は仕事で来れないので、今日できるだけ荷物を持って帰ってもらい、
当日は少しでも身軽になって退院する予定。

入院した時に荷ほどきをするのとは違い、
退院に向けての荷造りはウキウキする。

途中、T先生が顔を出してくれる。
ここ数日顔を見てなかったので、どうしたのか?と心配だったけど、
退院騒ぎで、看護師さんに確認し損なっていた。

「実は消化器内科と血液内科の研修が終わり、
来週から救命の研修が始まるので、その打ち合わせ等で、
なかなか顔出せなくてすみませんでした」とT先生。

「先生~私ね、明日退院することになったんですよ」と言うと、

「え?そうなんですか?」と驚いている。

それにしても・・
私の危機に現れ、私が退院するのを見届けて異動。

T先生はまさしく白馬の王子さまそのもののような気がする。

「カルテを確認する前にチエさんの顔見に来たから・・退院のことまだ知らなくて」

「先生、明日はお休みですか?」

「いや勤務です。午前中は血内だけど、チエさん何時までいますか?」
と聞かれ、

「退院の手続きは10時からなので、それまではいます」
と答えると、

「絶対来ますね」と言ってくれる。

荷造りもすみ、彼と2人で外来病棟のソファーに並んで座りコーヒーを飲む。
珍しくお互い口数は少ない。

でも繋いだ手からはお互いの思いが溢れてる。
笑ったり、泣いたり、肩を寄せ合ったり・・
色々な思い出があるこの場所で過ごす最後の日曜日。

 

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