35章|C型肝炎治療での心の葛藤
足音と胃痛 4月25日(月)
憂鬱な月曜日。
バタバタと廊下に響く足音。
「はい、おはようございます」とS先生。
「おはようございます」
と私がいい終わらないうちに、
「どうですか?調子は?」と聞かれたので、
「身体の痛みは相変わらずですが、まぁまぁです」と私。
「輸血2回もしたんだから貧血もよくなってるんじゃないんですか?」
どこか意地悪に聞こえる。
でも昨日のT君の話を思い出し気を取り直して、
「そうですよね?だとしたらインターフェロンの治療続けられますよね?」
と聞くと、S先生は眉間にシワを寄せて、
「インターフェロンは、あなたの場合は最低でも48回。
一年ですよ?どれだけ輸血するんですか?
死んじゃいますよ!」
「…」
ほかに言いようはないのかい?
夕方の回診。
あのバタバタが聞こえてくると私の身体に異変が。
イテテテ…胃がキュッ。
限界間近 4月26(火)
身体は正直なもので。
気づいてしまった身体は本当に敏感に反応するようになった。
胃がキュッとすると、あのバタバタが聞こえてくるというように。
音にではなく、存在自体を察知するようになってる?
これはマズイ・・意を決して回診の時に、
「最近、胃が痛みます」とS先生に言ってみた。
だいぶ遠回りだけど気づいてくれますようにと願いながら。
「心配ならいつでも胃カメラしますよ?本職ですから。
でも本当に胃潰瘍とかなら吐血してますよ」
と一気に話し始めるS先生。
誰も胃潰瘍とは言ってないし・・
「まぁあなたの場合は神経からでしょうね」
と続ける先生。
あれ?自覚あるんだ?と思いきや、
「インターフェロン治療は進まない上に、輸血までしたんですからね」
と自己納得してるけど、それまったく的外れてます。
「とにかく貧血はKが責任持って診てくれるわけだからね。
さて、こっちはどうしますかね?」
このままにしておくと、
本当に胃潰瘍になるかも私。。
密談 4月26日(火)
もうS先生に診てもらうのは限界間近かもしれないと思った。
考えた末、研修医T先生に率直に相談してみようと思う。
T君だったら…今はその予感に頼る他なかった。
朝、顔出ししてくれたT君に、
「相談したい事があるのですが」と言った。
私よほど切羽詰まった顔してたのかな?
T君は何も聞かず、
「じゃあ後で来ますね」と病室を出て行く。
それから一時間後、約束通りT君は病室に現れ、
「5分後に上の階で待ってますね」そう言いまた病室を出て行く。
T君の気遣いが嬉しい。
病室で話すのはちょっとなと思ってたけど、私からは言いづらかったから。
余計にT君のファンになっちゃう。
エレベーターに向うのにナースステーション前を通りかかった時、
S先生が目に入り心臓が止まりそうになる。
約束の場所に着くと、T君が先に来て待っててくれた。
T君の優しい顔を見たら…。
「何でS先生ああなんですか?」
「何で先生同士でもっと話し合ってくれないんですか?」
「私どうすれば良いんですか…」
それまで抑えてた気持ちが爆発した。
報告 4月27日 (水)
研修医T先生と引き続き昨日と同じ、上の階の談話室で会う。
昨日、私の話を聞いたT君は、両先生の見解を上手く聞き出してみますと約束してくれた。
その報告。
K先生はS先生から、
「血小板どれくらいまでなら下がっても大丈夫なの?」と聞かれ、
「最悪一万と答えたけど。あんなに貧血の数値が下がってるなんて」
とビックリしてたご様子。
今後はヘモグロビンが下がりきらない段階で
輸血などの治療をしていく方針だと仰ってたとのこと。
S先生は。
「血小板は約束の一万切らないようにしてたのに。
輸血しちゃったら、薬の効果と貧血を含めての副作用の見極めが出来なくなる!
インターフェロン治療続けるのに、輸血し続けることはナンセンスだ!」と、ご立腹だった様子。
ここまで聞いて、私は思わず
「なんで最初にそれを話し合ってくれなかったんですか?
先生同士で話し合って治療を進めるのではないのですか?
同じ病院にいるのに…」
かなり興奮してた私は、
「医龍とかグレーズアナトミーとか、チーム医療という考えはないんですか?」
ドラマを引き合いに出し、思ったことをストレートに言葉にしていた。
T先生は黙って聞いていた。
C型肝炎と再生不良性貧血。
それぞれの病気に一緒に立ち向かってくれる医師がいるのに。
3人の関係は近いようで遠い。