14章|C型肝炎治療と入院計画

思惑

「いつからはじめますか?」
S先生の言葉でふと我にかえった。

「治療してもらえるのですか?」
不意をつかれ、出た言葉が直球すぎたかもしれない。

「だって調べてきたんでしょ?
治療を最後まで出来るかどうか不明だし大変だけどやってみたいのでしょ?」
少しイラっとしながらカルテを見る手を休めずにS先生が言う。

「今日の血小板は4.7万か。基準の5.0万には届かないね。
さてどう進めるかですね」
私の血液数値を見て先生がつぶやく。

私は意を決して口を開いた。
「色々調べたのですが、私のような症例はありませんでした。
それでも治療を受けたいという気持ちに変わりはないです。
進行を止めたいです。先生ご存知のこと教えて下さい」

カルテから目を離しS先生が私を見据えて言う。
「僕も色々調べました。
残念だけど有益な情報はありませんでした。
でもあなたが全て承知でやりたいと言うし貧血はKが診てくれるんでしょ?
なら、いいんじゃないんですか?まだまだ50歳前だしね」

私が呆然とS先生を見てると
「では今ここで確認してきます」と言い残しS先生が消えた。

パーテーションで区切られてる診察室。
たしか2つ先ではK先生の診察が行なわれている。
「え?まさか?」と私が思った時。

「おたくの患者さんがインターフェロンやりたいっていう件、
本人の強い希望だからやってみる事にする。
でも貧血の方はそっちが全面的に診てくれよ。
俺は肝臓を全面的に診るから。
今本人と話してて不安なようだから言いに来た」

歯切れがよく声の通るS先生の言葉はフロアー一面に響いていた。
それに比べてK先生の穏やかな口調がフロアーに響き渡ることはなかった。

「今Kと話してきた。
貧血はむこうが診るから大丈夫だそうだ。
私は肝臓をしっかり診ていきます。
どこまで出来るか分らないけどね。
それでいいなら、いつからにしますか?」
戻ってきたS先生からも直球が返ってきた。

私は少し迷ったが、考えていたことを思い切って言ってみる。
「治療には1年かかるのですよね。
年内にやっておきたい事もあるので、出来たら年明けにでも・・・」

恐くてS先生の顔は見れない。

「いいですよ。
年明けすぐだと寒くて通院も大変だろうから、
春ぐらいからにしますか?」
また予期せぬ言葉がS先生から返ってきた。

つい、「本当にいいのですか?」
と聞き返してしまった。

すると、「いいと言ってるでしょ。肝臓の数値も凄い悪いわけではないし。
まだ若いんだし!」
ちょっとムッとした様子で言葉が返ってきた。

なので慌てた私は
「では来年の3月頃にお願いします」と頭をさげた。

「では2月に受診予約を入れますね。
検査して検査結果が問題なければ
3月から2週間入院して治療を始めます。
こんな感じで良いですか?」と聞かれ
「お願いします」今度は即答した。

「ではお大事に!」
そう言ったS先生は第一印象と同じ笑顔だった・・・。

診察室を後にした私の頭の中には
S先生の「まだ若い」という言葉が
なんで???と共に残る。
そんなに若くないのに・・・

でもすぐ、治療を決意した時に決めてた別の事が頭をよぎる。

「これで来年の春まで時間が出来た。
ハワイに帰れる」
心はもうハワイのことで一杯だった。

この時の私はまだ知らなかった。
待ちかまえていたS先生との闘病の恐さを・・・。

 

←「13章 二人の医師」  「15章 治療の幕開け」→