再生不良性貧血はどんな病気?原因|症状|検査|治療|予後

Q1. 再生不良性貧血とはどんな病気ですか?

再生不良性貧血ってこわい病気?

illust2016_thumb

 

A1. 再生不良性貧血とは骨髄中の造血幹細胞が減少することによって
骨髄の造血能力が低下し、白血球、赤血球、血小板の
全ての血球が減少する病気です。

illust203_thumb

造血幹細胞とは骨髄中にあり白血球・赤血球・血小板のもとになる細胞です。
これら3種類の血球は一定の寿命で破壊、消滅するため、健康な人の造血幹細胞では
毎日壊れた血球を補うために、3種類の血球が作り続けられています。

再生不良性貧血では、造血幹細胞が何らかの原因で損傷し機能しなくなるため、
3種類の血球を補うことが出来なくなっています。
1972年に国の特定疾患(難病)に指定されており貧血の中で最も治りにくい疾患です。

 

 

Q2. 再生不良性貧血の原因として考えられることは何ですか?

再生不良性貧血の原因は?

illust2016_thumb

 

A2. 再生不良性貧血の原因には、生まれつき遺伝子の異常があって起こる①先天性の
場合とそうではない②後天性の場合があります。

illust203_thumb

①先天性の多くはファンコニ貧血と人の名前がつけられた病気で、
再生不良性貧血でもまれな疾患です。

よくみられるのは後者の②後天性再生不良性貧血と呼ばれるもので、
造血幹細胞が何らかの損傷を受け機能しなくなり減少し、
多くの場合、その部分が脂肪組織に入れ替わっています。
そのため必要な血球を補う事が出来なくなっています。
後天性再生不良性貧血の場合、80%が原因不明で、残り20%が薬剤や科学物質、
ウィルスなどが原因として疑われています。
また原因不明の多くの場合に、免疫機能の異常が考えられます。

免疫は外部からのバイ菌やウィルスから自分の身を守ろうとする働きをし、
白血球のリンパ球が主に役割を担っています。
通常、自分自身を攻撃する事はないのですが、後天性再生不良性貧血では、
この体の仕組みが何らかの原因で変化し、
白血球中のTリンパ球が造血幹細胞を攻撃してしまうと考えられ、
自己免疫疾患の1つとして考えられています。

 

 

Q3. 再生不良性貧血には、どのような症状がありますか?

これって再生不良性貧血の症状?

illust2016_thumb

 

A3. 再生不良性貧血の場合は、白血球、赤血球、血小板それぞれの減少によって
貧血症状や出血傾向による自覚症状または他覚症状があらわれます。

illust203_thumb

 
◇白血球中の好中球(細菌を殺す役割)の減少
⇒細菌感染症になりやすい・発熱
◇白血球中のリンパ球(ウィルスによる感染を防ぐ役割)の減少
⇒ウィルス感染しやすい

◇赤血球(酸素運搬係の役割)の減少により、
①脳 ②筋肉 ③心臓への酸素の供給不足がおこる
⇒自覚症状①めまい・頭痛 ②だるい・疲れやすい ③胸の痛み・動悸・息切れ
⇒他覚症状:顔面蒼白

◇血小板(血を止める役割)の減少により、出血しやすくなる
⇒他覚症状(軽度)・点状出血や紫斑・鼻血・歯茎の出血
⇒他覚症状(重度)・眼底出血・下血・性器からの出血・血尿・脳出血

 

 

Q4. 再生不良性貧血は、どのような検査で分かりますか?

どんな検査をすればいいの?

illust2016_thumb

 

A4. 再生不良性貧血の多くの場合は血液検査で赤血球、白血球、血小板の減少を認められた場合に
骨髄穿刺(マルク)を行って造血幹細胞の状況を確認し診断されます。

illust203_thumb

【血液検査】
抹消血検査:採血して赤血球、白血球、血小板の数値を調べる
【病理検査】
骨髄穿刺(マルク):胸骨(胸の中心)又は腸骨(骨盤)に針を刺し
骨髄液を採取し骨髄での造血状態を調べる
【生化学検査】
血清生化学検査
【機能検査】
血液機能検査
【画像診断】
MRI・・・全身の造血能を正しく評価するため

 

 

Q5. 再生不良性貧血の治療方法を教えて下さい

どんな治療があるのかな?

illust2096_thumb

 

A5. 再生不良性貧血の治療方法には支持療法と根本治療があります。

illust205_thumb

支持療法とは、病気の根本的な治療でなく、症状を軽減する治療。
根本治療とは、造血機能の回復、改善のための治療。
病気の重傷度により、必要な治療方法が違いますので、
状況に応じて治療方法を変える必要があります。

 ダウンロード
◆支持療法◆:症状を軽減する治療
<輸血>
・赤色血球減少→赤血球輸血
・血小板減少→血小板輸血
・白血球減少→ホルモン投与

輸血のリスク】 
・輸血時点では判明していない感染症に将来的かかってしまう可能性がある
・血小板輸血を繰り返すと抗体が出来てしまい、効果がなくなる可能性がある
・骨髄移植時の拒絶反応が強く出る可能性がある

<造血因子>造血を促す治療法(コロニー刺激因子の投与など)

<鉄キレート療法>効率よく体内の鉄分の排出を促し、臓器障害を軽減する

 

illust328_thumb
◆根本治療◆造血機能の回復、改善のための治療

illust1306_thumb
<タンパク同化ステロイド(男性ホルモン)療法>
⇒ステロイドが腎臓に働きかけ、赤血球の生成を促すホルモンの一種
 エリスロポエチンを分泌させて骨髄に働きかけることで造血を促し、
 症状を改善する治療。

【特徴】効果が出るまで2~3ヶ月、長くて1年ほどかかる
【副作用】ムーンフェイス、男性化(体毛が濃くなる、無月経など)、肝機能障害

 

illust1306_thumb 
<免疫抑制療法>
⇒造血幹細胞に損傷を与えているTリンパ球を抑制し、造血を回復させるための治療

◇シクロスポリン(ネオーラル)投与
・発症から治療開始まで時間が短いほど効果が高い
・特に血小板減少から始まった汎血球減少では早期のネオラール投与は
効果が得やすい

◇ATG(抗胸腺細胞グロブリン)、ALG(抗リンパ球グロブリン)投与>
・ウマ、ウサギの血清から精製した薬剤の投与
(2008年にウマATGの製造中止により現在はウサギATGが使用されている)
・投与後1~2ヵ月後はリンパ球の減少により感染症になりやすい
・治療により約7割が輸血依存から抜けられ、長期生存率は80%
・症状が改善した長期生存者の中には再発、骨髄異形成症候群や
急性骨髄背白血病に移行する確率が5~15%

 

illust315_thumb
<骨髄移植>
・HLA(白血球型)の一致する血縁ドナーからの移植の成功率→80%
・16歳未満の患者さんでHLA(白血球型)の一致する血縁ドナーからの
移植後の5年生存率は93%
・16歳~40歳未満の患者さんでHLA(白血球型)の一致する血縁ドナー
からの移植後の生存率は86%~100%
・40歳以上の患者さんは移植前処置での副作用や術後の拒絶反応が
強く出ることが多く、長期生存率は70%前後
・16歳未満の患者さんでHLA(白血球型)の一致する非血縁ドナーからの
移植後の5年生存率は85%
・16歳~40歳未満の患者さんでHLA(白血球型)の一致する非血縁ドナー
からの移植後の生存率は70%

 

illust1457_thumb

再生不良性貧血の重傷度基準

stage 1  軽症    下記以外

stage 2  中等症    以下の2項目に該当
網赤血球  60.,000/μl未満
好中球    1,000/μl未満
血小板   50,000/μl未満

stage 3  やや重症  以下の2項目に該当し、定期的な赤血球輸血を必要とする
網赤血球  60,000/μl未満
好中球    1,000/μl未満
血小板   50,000/μl未満

stage 4  重症     以下の2項目に該当
赤血球  20,000/μl未満
好中球     500/μl未満
血小板   20,000/μl未満

stage 5  最重症   好中球 200/μl未満に加えて、以下の1項目以上に該当
網赤血球  20,000/μl未満
血小板   20,000/μl未満

 

illust191_thumb

◆stage1およびstage2の治療

血球減少が進行せず、血小板が5万/μl以上で安定している患者さんには経過を
見ていくうちに自然に回復する例がある事から従来は無治療経過観察が
行なわれてきました。

ただし血球減少が自然に回復する事はまれであり、免疫抑制療法は発症から
治療開始まで時間が短いほど効果が高いことからも、
数ヶ月経っても回復が確認できない場合は、血球減少傾向の軽い症例であっても、
血小板減少が優位で骨髄巨核球が減少しているタイプでは状況に応じて、
シクロスポリン(ネオーラル)を2~3ヶ月内服して様子をみます。

バッド (下向き矢印) シクロスポリン(ネオーラル)の主な副作用:血圧上昇、腎機能障害、多毛など

 

血球減少が進行してる、または血小板数が5万/μL以下に低下している
患者さんの場合、まずシクロスポリンを2~3ヶ月内服して様子をみます。
効果がみられなかった場合は、蛋白同化ステロイドの酢酸メテノロン(プリモボラン)
への切り替えも必要です。
更に血球減少が進行し輸血が必要になった場合は、
入院しATG(抗胸腺細胞グロブリン)の投与療法を受けることが必要になります。

バッド (下向き矢印) プリモボランの主な副作用:過敏症として肝機能障害、女性の男性化
(月経異常、しゃがれ声、多毛)、男性では陰茎肥大、持続性勃起など
バッド (下向き矢印) ATGの主な副作用:アナフィラキシーショック症状(プレドニゾロンを併用し防ぐ)、 発熱、じんましん

 

illust191_thumb

◆stage3以上の治療

40歳未満でHLA(白血球型)の一致する血縁ドナーのいない患者さんと
40歳以上の患者さんの場合は、
ATG(抗胸腺細胞グロブリン)とシクロスポリン(ネオーラル)の併用療法を行なう。

ATG投与中はアレルギー(アナフィラキシーショック症状)を防ぐため
メチルプレドニゾロンまたはプレドニゾロンを併用し以後漸減する。
この治療により約7割の患者さんが輸血不要となり、長期生存率80%が期待できる。
40歳以上の患者さんでは、HLA(白血球型)の一致する血縁ドナーからの骨髄移植で
あっても長期生存率が70%前後にとどまっていることから、 免疫抑制療法が優先される。

バッド (下向き矢印) シクロスポリン(ネオーラル)の主な副作用:血圧上昇、腎機能障害、多毛など
バッド (下向き矢印) ATGの主な副作用:アナフィラキシーショック症状(プレドニゾロンを併用し防ぐ)、
発熱、じんましん

 

40歳未満でHLA(白血球型)の一致する血縁ドナーのいる患者さんの場合は、
移植後の生存率(86%~100%)の
高さから骨髄移植が第一選択の治療となる。
ただし、20歳~40歳の患者さんの場合は、骨髄移植、免疫抑制療法それぞれの
メリット・デメリットがあるため、まずは患者さん自身がよく理解した上で
状況に応じた治療を選択する必要があります。

◇免疫抑制療法でも治療効果では同数値の生存率が確認されているが、
治療後の再発・骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病への移行などの
リスクなしに生存する確率は50%である。
◇20歳以上の患者さんでは、移植に伴なう治療での関連死亡の危険性が
10~20%である。

 

免疫抑制療法の効果がなくてHLA(白血球型)の一致する血縁ドナーの
いない患者さんの場合は、非血縁ドナーからの移植が有効になりますが、
血縁ドナーからの移植に比べて、移植に伴なう治療での関連死亡の危険性
が高まるため、蛋白同化ステロイドの一種である
ダナゾールの投与やATGの再投与が効果を示すこともあります。

 

以上の治療に効果がなく定期的に輸血が必要となる比較的若い
(50歳未満)
患者さんの場合は、
非血縁ドナーからの骨髄移植が行われます。
ただし非血縁ドナーからの移植では移植後の拒絶反応や合併症の頻度が高く
移植に伴なう危険性も高まります。

また、移植前処置で用いられてきた抗がん剤や全身放射線照射は
臓器や組織に対する毒性や負担が強いため、
今日では、1990年代後半に開発された骨髄非破壊的移植(RIST)が
移植方法として有用性が期待されています。

 

 

Q6. 再生不良性貧血なったらどうなりますか?

再生不良性貧血の予後は?

illust2098_thumb

A6. 再生不良性貧血の予後について

illust209_thumb

軽症~中等症(ステージ1~2)の場合、
全く進行しないケースや自然回復するケースもあります。
また発症後、早期にタンパク同化ステロイド(男性ホルモン)療法や
免疫抑制療法などの治療を行うことで、
70%以上の患者さんが輸血不要となったり、
90%以上の患者さんに長期生存が期待できます。

やや重症~重症(ステージ3、4)の場合、
免疫抑制療法で約60~80%、血縁ドナーからの骨髄移植では約80%の
長期生存が得られます。

最重症(ステージ5)の場合、
好中球数0で感染症がコントロールできない場合は
早期に骨髄移植を行わなければ感染症などのため死亡する確率が高いのが現状です。