10章|再生不良性貧血の再発

再生不良性貧血の不安が現実に

一週間後、K先生とH先生が揃って病室に来た。
「今日は部長検診日ではないのにな。
マルクの検査結果が出たんだ」と思った。

「こんにちは」私はつとめて普通に挨拶した。
「こんにちは。体調はどうですか?」
K先生はいつもの優しい笑顔だ。
H先生は、「こんにちは」とだけ言った。いつもより固い表情だった。

「体調はボチボチです」
と私が答えると、
K先生は笑っていたが、
H先生の表情は変わらなかった。

「マルクの検査結果が出ました」
とK先生が話し始めた。
「はい」と答えた私の声は少しうわずっていたかもしれない。

再生不良性貧血の再発でした」
K先生の言葉が頭の中でグルグル。

「今後の治療についてH先生から説明があります。
色々不安もあるでしょうが、頑張りましょう」
と言い、K先生は別の患者さんの対応のため足早に出て行った。

覚悟は出来ていたつもりだが、どこかで期待もあった。

「やっぱり再発か」思わず声に出してた。
でもH先生はそれには何も答えず
今後の治療方法・治療期間について説明し始めた。
そして一通り説明が終わると、その日はじめて私の顔を見て
「乗り切れる!」とだけ言い病室を後にした。

私とH先生そしてK先生との
再生不良性貧血闘病が始まった。

 

再生不良貧血治療 1996年1月10日~

治療方法 : ステロイドパルス療法
体の免疫力を抑制する作用がある
副腎皮質ホルモンの1つであるステロイドによる治療。

通常量のステロイド薬を長期間内服するのに比べて
副作用も少なく有効であると考えられ
1日に500mg~1000mgのステロイド(1000mgは錠剤250錠分)を
3日間連続で点滴することを1クールとして1~3クール行う治療法。

通常1ヶ月に1クール。
ステロイドパルス終了後はステロイド治療を中止するか、
ステロイド内服をおこない、ゆっくりと減量。

私の場合は症状が重かったので
1ヶ月内に2クール行なう予定。

だが、パルス療法は私には効果がなく逆に血液の数値が悪化してしまう。

薬が私の体に合わない事が判明し中断となった。
他に顕著だった副作用は不眠、ムーンフェイス。
肝機能への負担も考慮しステロイド内服も行なわなかった。

今(2013年秋)当時の記録や資料、検査結果などをまとめてて思うのは、
当時は再生不良性貧血の治療方法が本当に限られたものだったこと。

先日もK先生と話していて、
K先生の「あの時(1996年当時)は何もなかったからね」
と言い遠くを見る横顔がとても印象に残っている。

先生は多くは語らなかったが、
今のように早期に免疫抑制療法が行なわれていれば・・・
助けられた多くの命の重さを感じてらしたのかもしれない。
現在も原因不明の難病である病気の治療法が、
ここまで発展してきたのは本当に凄い事だと思う。

1クール目のステロイドパルス療法により、
ショック的に一時5万を越えた血小板の数値。
だが2クール開始前、反動で急激に下がり
1万台を切る恐れが生じたため、治療は中断された。

肝機能数値は少し高いという範囲であったがC型肝炎を発症しているので、
ステロイド剤の肝臓への負担も考慮した決断だった。

白血球、赤血球、ヘモグロビンの減少も著しく。
数値と体調が落ち着いて感染の不安が減少するのを待って退院。
その時点で可能と思われる治療方法はなく、
経過観察で模索することになる。

私の場合は再発であり
C型肝炎や子宮内膜症を患っていることで、
今後どのような治療をするべきか
かなり先生達の頭を悩ませたと思う。

 

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