3章|再生不良性貧血と医療の影
腹痛と診療拒否 1995年11月12日
その日は社労士合格者のセミナーに
出席をする予定を入れていた。
でも前の晩から下腹部に痛みがあり、
「寝れば治る」と思っていたけど、
痛みは増す一方で一晩眠れずに朝を迎える。
それでも起き上がり支度をしようとした瞬間、
今まで感じたことのない激痛が走り、
お腹を抱え立ち上がれなくなった。
近くで日曜日も診療している病院は限られている。
一番近くにあるのは評判の良くない病院だったが、
「薬出してもらえば大丈夫だろう」と
近所の総合病院に行くことに。
内科での問診の結果、
「血液検査をして産婦人科を受診するように」と言われる。
「生理の周期も順調で生理痛もないのに」と思いつつ、
採血し待合室で待っていた。
1時間程して呼ばれ診察室に入ると、
医師が血液検査の結果を手に渋い顔をしている。
「腹痛の原因は診察しないとハッキリしません。
ただ、もし何かしらの病気が判明したとしても、
あなたの場合は治療をするのは難しいと思います」と言った。
見せられた血液検査の結果は異常な値をしめしている。
嫌な予感が頭をよぎる。
呆然としている私に医師は、
「痛み止めを出しますので、専門の病院でちゃんと診察を受けてください」
と言い処方箋を書き始めた。
「どこの病院に行けばいいですか?」
私の言葉は医師に聞こえたはずだ。
でも医師はそれには答えず、
処方箋を書く手を止めずに、
「お大事に」とだけ言った。
憤りと頭をよぎる不安で
お腹の痛みを忘れてしまったくらいだった。
「どうしよう・・・」
次から次へと頭の中で悪い事がグルグルしていた。
今であれば
「再生不良性貧血」「腹痛」「受診可能な病院」
このキーワードで受診できる病院を探すことは簡単だろう。
でもこの時まだ我が家にはパソコンがなかったし、
インターネットでたくさんの情報を得られる時代ではなかった。
情報を集めるのは難しかった。
思いつくのは15才まで通院していた国立病院。
あれから長い月日が経っているので、
カルテは残っているか?
担当医師はまだいるのか?
不安だが当時の医師がいなくても、
後任の先生がいるはずと願う気持ちで電話した。
「本日は診療時間外でお調べ出来ませんので、
明日来てください」とオペレータの女性は言った。
他にも電話帳を手に数件の病院に電話で問い合わせたが
「本日は休診です」のアナウンスや、
繋がったとしても
「まず一度来てください」という応答ばかりだった。
翌日、入院・通院したことのある国立病院に行くことにした。
再発の恐怖はもちろん、
考えてもいなかった診療拒否としか思えない医師の態度に深く傷ついた。
救急車受け入れ拒否の報道などで、
「ひどい」と心痛める事はあった。
でも実際に自分の身に起こった時、
目の前で医師がとった言動に怒りよりも先に、
「なぜ?どうして?」という気持ちが襲う。
処方してもらった痛み止めで腹痛は治まったが、
心の痛みは消えなかった。