針刺しはT先生　4月28日(木)

治療入院で本日は3回目の輸血。
夕方近く、オーダーされた血液と一緒に現れたのは想定外の人。

「あ・・」と驚きが言葉に出る私。

「こんばんは」とちょっと照れくさそうなT先生。

「チエさん、T先生の練習台になってあげてね。
大丈夫！私がついてるから」
とニッコリ笑顔のK村看護師。

私が信頼を寄せている看護師さんの1人。
肝っ玉母さんタイプの彼女は、
思うように行かない治療で落ちこんでる私にいつも、
「クヨクヨしない！しっかり病気と向き合おうね！」と叱咤激励。

そしてその後、
「大丈夫だからね！チエさんは1人じゃないよ！みんながいるからね」
と私の手を温かい手で包み込んでくれる方。

いつもなら、針刺しが研修医の先生となると、
それだけで私の血管はビクビクなのだけど、今回は違う。

「たぶん一回では難しいかな？」
と思いながらも不思議と、ワクワクしていた。

「どちらの腕にしますか？」K村看護師が聞く。

「夕飯までには終わらせたいところだけど、
終わらなかった場合に食べにくいとチエさんが大変だから、左腕にしましょう！」
T先生らしい優しさにジーンときてしまう。

注射泣かせの腕を差し出すのを申し訳なく思う。
案の定、私の血管とにらめっこし、固まるT先生。

「はい、リラックスして～」
K村看護師の掛け声。

普段なら私にかけられるその言葉は、
今日はT先生に向けられる。

先生は、
「はい！」と言い、

1つ深呼吸をし、狙いをさだめ針を刺す。

「ん・・？」
3人が直感的に感じる。

「抜きましょう…」
1回目は残念な結果となる。

「右手いいですか？」
T先生が申し訳なさそうに私に聞く。

「もちろん！どうぞ」
と右腕を差し出す。

「食事がしやすい場所の方が良いですよね」
と言いながら、肘内側の固定し易い箇所を探ってくれる。
しかし、そこには先生が求める血管は存在しない様子。
T先生の目は別の箇所を捉えていた。

「今日の夕飯のメニューはなんですか？」
いきなりのT先生の問いに、私もK村看護師もびっくりし顔を見合わせた。

「えっと～」献立表を確認し
「今夜はカレーですね」と答える。

「それなら手首に針を固定してもスプーンで大丈夫かな？」
と先生。

「大丈夫です！先生の刺しやすいとこ、どこでも良いですよ～」
私が言うと、

「そうよ！食べにくいようなら、私が食べさせてあげるから大丈夫！」
とK村看護師。

「分かりました！では右手首で！」と、
全神経を集中しルート確認するT先生。

針刺しに病室に来られてから既に20分近くが経っているので、
かなりのプレッシャーがかかっていたと思う。

ルート確認していたT先生の指が止まり、
K村看護師を見上げる。

「ここでいこうと思いますが」
言葉にはしていなかったが…

K村看護師は、
「大丈夫！」と答える。

T先生は1つ深呼吸をして、
「痛かったら言ってください」と言い、針が刺される。

「はぁ～」3人が直感的に感じる。
2回目の針刺しは大成功し、3人に安堵がもれた。

「すみませんでした」とT先生。

「先生、これから自信持ってね！私の血管で成功するのは凄いのよ～」
と私が言うと、K村看護師も、

「そう！私も初めての時は2回目でだったものね」
と言い、3人で笑った。

一致団結。そんな言葉がピッタリくる今回の針刺し。

T先生とK村看護師お2人のエールと、
献血をして下さった方の血液で、
「もっと頑張ろう～」という気持ちとパワーをいただきました。

スプーンは針が固定された腕でも不便なく使え、
難なくカレーを食べてると、

「こんばんは～」とT先生が顔を出す。

「普段ならこの時間に病室に来ることはないのに…？」
私がカレーを食べてる姿を確認すると、
ホッとした笑顔で、「ごゆっくりどうぞ～」と言い、
早々に退室していく。

注射嫌いの私が、針刺しの痛さを忘れ、
気持ちが温かくなった時間。
今日のことで、よりT先生が大好きになった。

S先生の観察記録＆インターフェロン5回目投与　4月29日(金)

朝の回診。
S先生の開口一番が
「また輸血しちゃったんだ～」

いくらT先生から、S先生の発言は治療の事を考えてだと聞いていても、ムカっとくる。

昨日の今日で、T先生に心配かけたくなかったけど、
顔を見るとついつい愚痴ってしまう。

するとT先生から、
「S先生とのこと、話したことや思ったことを記録してみたらどうですか？」
と提案される。

「はぁ～？」と最初は訳が分からなかった。

「S先生はとても頭の回転が早い方なので、僕も話しについていけず、
後であれこれ考えても訳が分からなくて困りました。
なので、聞いた事はすぐメモすることにしたんです。
するとね、先生の考えが何となく分かるようになったし、
先生に対する接し方も分かってきたんですよ！」

「なるほど！」
さっそく今日から記録することにしよう。

今日の検査結果
血小板：1.9万　白血球：1700　赤血球：219　ヘモグロビン：6.9
AST：43　ALT：53　r-GPT：93

←「３５章　葛藤」　「37章　」→