7章|子宮内膜症の目覚め
子宮内膜症の手術から一夜経って 1995年11月14日
下腹部の鈍い痛みで目覚めた。
白い天井だけがぼんやり目に入り
自分がどこにいるのかすぐに分らない。
昨夜、子宮内膜症の手術が終わったのが午前0時を過ぎていた。
母は入院の用意をするため帰宅した。
私は術後、産婦人科病棟のベッドに移動。
その時は消灯されていたので部屋の様子も分らなかったし
疲労困憊していたのですぐ眠りに落ちた。
大部屋のようだがカーテンで閉ざされ病室は静まり返っている。
他に患者さんがいるのか分らない。
時間を知りたかったが時計はないし。
口の中が気持ち悪かったがタオルも歯磨きセットもない。
本当に身一つで緊急入院したんだ。
怒涛のような一日だったという実感がわいてくる。
しばらく横になったまま様子をうかがう。
が、急にトイレに行きたくなった。
起き上がろうとすると
「うっ」下腹部に鈍痛が走り思わずかがみこむ。
「無理かな?でもトイレ行きたい」
「えい!」と思いながらもベッドの淵に座り、
はいてきた靴を探そうと下を覗く。
見慣れない物がベッド脇につるしてあり辿っていくと私と繋がっていた。
「あ!」尿道に管を入れた時の最大級の痛みが蘇ってきてブルーに。
「しかたない」と思いナースコールする。
最初からそうすれば良いのだが、
幼い頃からずっと忙しく大変な看護婦さん達を見てきたので、
「自分で出来ることはしよう」
と思うようになっていたところがあり
時にその性格が入院生活で災いする。
「どうしました?痛みますか?」
看護婦さんに聞かれ
「痛みもあります。
でもそれ以上にトイレに行きたくなりまして」と答える。
看護婦さんは笑顔でベッド脇の袋を確認しながら、
「大丈夫ですよ。何もしなくてもちゃんとオシッコ出てますから」と説明してくれた。
血圧を計測されながら、
「オシッコって絶対に自力でした方がスッキリするな」と思っていた。
せっかく看護婦さんが来てくれたので最も関心のある事も聞いてみる。
「朝ご飯は何時ですか?」
それに対して看護婦さんは
「手術後すぐですから朝は出ないですね」と苦笑いした。
「1食抜く事になるけど我慢してね。
先生に相談して早めに開始してもらおうね」
と言い立ち去って行く。
「1食じゃないのだけど・・・」
2日前からの一連の騒動で殆ど食事をしてなかった私は
安堵感からお腹が空いてしかたなかった。
でも7食目もおあずけ。
しばらくして
「おはよう~。どうですか?痛くないですか?」
と言いながらM先生が回診に来た。
簡単に症状を説明すると
「では、あちらの診察台で診てみましょう。消毒もしないとね」
と言い、私を起き上がらせ
病室と廊下を隔てた診察室に。
先生は消毒しながら
「溜まっていた血液は殆ど取り除いて綺麗になったけど
癒着してるから、どうしても痛むのよね」と言った。
そして昨晩の手術のこと、
今後の治療方針を説明してくれた。
・数日は手術時に穿刺した部分の消毒が必要
・しばらく血液を抜いた後の癒着による痛みがあるので痛みが酷いときは鎮痛剤を使用
・状態が落ち着いたら薬で生理を3~6ヶ月止めて内膜症の再発を抑えるということ
病室に戻ろうとする私に先生は
「そうだ!ご飯はお昼から出るようにしたからね。
辛いだろうけど朝は我慢してね~ごめんね」
と笑顔で言った。
M先生に優しく言われると、嬉しいと同時に
「どれだけお腹空かせてるって聞いたんだろう」
と恥ずかしくなった。
午後から血液内科の受診があり
母も同席した。
K先生から
「産婦人科の方が一段落したら内科病棟に移り
詳しく検査をしましょう」と話があった。
K先生の柔らかな物腰と優しい口調は病気の恐さを和らげてくれる。
全てをお願いしようという気持ちになる。