2章|病の不吉な前兆

交通事故と再生不良性貧血再発の前兆 

寛解後、次第に通院も検査も薬もなくなり、
人生初めて病院との繋がりが消えた不思議な感覚。

紫斑はできやすかったけど、
ずっと症状は落ち着いていて、
進学~就職と、
私は普通の青春時代を過ごした。

そして社会人になり5年目を迎えた頃
ある新聞記事がきっかけで、
社会保険労務士を志すようになる。

一度目の受験は不合格。
気持ちをリセットし二度目に挑戦。

試験を3ヶ月後に控えた講習後、
友人の車で家まで送ってもらう途中に事故は起きた。

見通しの悪いカーブ。
急に降り始めた雨。
対向車との正面衝突。

疲れ寝てしまっていた私は、
身体が叩きつけられる衝撃と痛みで目覚めた。

何が起きたのか瞬時に理解できずにいたが、
私の名を呼び続ける友人の声、
顔面を何かが流れ落ち続けてる感覚はあった。

手で顔に触れてみる。
「どうしよう」触れた右手が真っ赤。
「私、再生不良性貧血だったの」と咄嗟に友人に言っていた。

友人は急に言われた事を理解できないでいるようだった。
その日は白いシャツを着ていたが、
どんどん赤く染まるのを見ながら全ての意識を集中させ叫んでいた。

「私、血が止まらない病気だったの。
その事をきちんと救急車と病院の人に伝えて欲しい」

遠くに救急車のサイレンの音を聞いた気がした時、
スッと意識が遠のいた。

気がつくと治療室にいた。
医師が傷を確認しながら、
「眉間の間を2cmほど切ってますので縫いますね」
と耳元で説明した。

私は止血できてるのか不安だったが、
事故の瞬間フロントガラスに顔面衝突した時の打撲が原因で、
顔全体の痛みが酷く、口を開くのも目を開けるのも困難だった。

私の不安を察したのか、
「後が残りにくいように細い糸で縫うので大丈夫ですよ」と医師は言った。

思っていた事とは違っていたが、
医師の優しさ、
それに女性としてはその言葉でほっとした。

看護婦さんが一枚の用紙を医師に手渡す。
「先生、血液検査の結果がでましたが・・・」

それを見た医師は、
「これ何かの間違いでしょう。もう一度調べて」と指示する。
「血も固まってきてるし、そんなはずないだろ・・・」
独り言のように医師がつぶやく。

「血は固まってる」その言葉に安心はしたが、
嫌な不安が頭をよぎった。

MRI、CT、レントゲンでの異常はなかったのでその晩は家に帰り、
後日通院で治療をする事に。

帰り際に、処置をしてくれた医師が私のもとに来て、
「血液検査の血小板の値がありえない数字でね、
もう一度調べてもらったんだけど」
と首をひねりながら、

「止血も出来てるし綺麗に縫えたから傷は心配しないで大丈夫。
でも近い日に、もう一度血液検査した方が良いと思います」と言った。
 
次の日、打撲により顔が紫色に腫れ、
目も口も開けることが困難だった。

整形外科で診てもらうと、
「ガラスの破片が皮膚にのめりこんでますね」と言いながら
先生はピンセットで1つ1つガラスの破片を取り始める。
麻酔もしないので痛くて涙が出た。

それでも深く入り込んでいるものは取りきれず
「肉が盛り上がってくれば自然に取れるので、それを待ちましょう」と言われる。

その他、膝がダッシュボードに叩きつけられて半月版が損傷。
手術はリスクが高いので経過観察していく事になる。
その後、日常生活での大きな支障はないが、
時々「膝が入る」という説明しにくい状態になってしまう。

顔の損傷が一番酷かったので眼科を受診したところ、
「網膜はく離」になっていた。
レザー治療を受ける事になる。

ショックだったが、
「目を閉じてた事が幸いでしたね。
開けてたら失明してたかも」と医師に言われ、ゾッとする。

後に事故車両を見た警察の人が、
「助手席の人よく助かったな」と話してた事を聞いた。

事故2ヵ月後、
傷の症状が落ち着いたので気になっていた血液検査をする。

「少し貧血ですね」という結果。
安心すると共に、
あの時の先生の言葉がよみがえる。

「血も固まってきてるし、そんなはずないだろ・・・血小板が1万なんて」
痛みと麻酔で意識はモウロウとしていたし。
再検査の結果に異常は無かったし。
貧血の症状もでてない。

「聞き間違いだよね」そう自分に言い聞かせ、
1ヵ月後に迫った社労士試験の準備に取り組む時間の中で、
そんな不安もじょじょに頭の中から薄れていった。

 

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